外部の知恵の取り込み方

斎藤 祐馬 氏 「オープン・イノベーション成功のカギ」 第3回

オープンイノベーションを成功させるには

大企業がオープンイノベーションを成功させるには、大切なことが三つあります。一つは、良いベンチャーを見つけるために、ベンチャーのインナーサークルのネットワークに入ること。そしてもう一つは、社内の各部署を巻き込むことです。そのためには、トップから社内に伝えてもらうか、もしくはその担当者自身が、各部署にインセンティブがあるように巻き込んでいくことが大切です。その二つができたら、後は仕組みです。例えば、ベンチャーへの投資で、今まで1億円を通すのにも役員会の決裁が必要だったのを、ベンチャーファンドをつくり、何十億円か任せて、担当役員がOKであれば、あとは報告だけでいいというような仕組みに変えるだけでスピードが変わります。この三つに取り組んだのがテレビ局のTBSです。8〜9社に投資して、そのうち2〜3社が上場し、中にはM&Aをした会社もありますが、非常にうまくいっています。

日本でも大企業とベンチャー企業の提携が増えていますが、最近多く見られるのは、ベンチャーファンドを立ちあげたものの、投資することが目的になってしまい、そこから先になかなか進まないというケースです。ベンチャーにとっては、金銭的な支援だけなら金融機関やベンチャーキャピタルでいいわけです。大企業に支援してもらう意味は、事業が生まれて一気に拡大するチャンスがあることにあります。しかし、実際には金銭的な支援に留まり、ベンチャーの活動がまるで出島のように孤立していて社内を動かせない、というような事例が少なくありません。

オープンイノベーションで大切なことは、大企業がベンチャーにどんな機能を提供できるかです。大企業が自分たちで、0から1にする部分も含めて全部やるとなると、ベンチャーとぶつかりますから、ベンチャーは自分たちの情報を出したくなくなります。0から1にする部分はベンチャーに任せて、自分たちは売ることに徹する、といった役割分担の明確化が重要だと思います。日本の大企業でそれを上手くやっているのがソフトバンクです。人型ロボットのペッパーなど、ベンチャーが開発した技術を買収して、国内外に拡販しています。

世界中のイノベーション拠点に目を配る

「Morning Pitch」からは、大企業とベンチャーの提携が年間100件くらい生まれています。しかし、そこから、大企業がリソースを注ぎ込んで、事業の柱を生み出すようなケースはまだまだ少ないのが現実です。

しかし、グローバルでは、このようなケースはたくさんあります。例えばインテルは、今年3月、イスラエルのモービルアイという自動運転の基礎技術を持つベンチャーを買収し、自動運転事業のコアにしようとしています。グーグルやフェイスブックも、ほとんどすべてのサービスを、ベンチャーを買収することによってつくり出しています。ベンチャーが集積する世界のイノベーション拠点を“研究所”とみなし、常に提携のチャンスを探るのが、グローバルプレーヤーにとっては一般的なアプローチなのです。

日本企業の経営者と話していて課題に感じるのは、海外のイノベーション拠点について、シリコンバレーやイスラエル辺りまでしか目配りがされていないことです。イノベーションは、今や世界中から生まれる時代です。例えば、林業に関しては北欧にベンチャーが多かったりします。世界中にイノベーション拠点があるのに、それらを活用しないのは、企業にとって非効率です。

そこで今、私たちは、世界のイノベーション拠点24カ所について、それぞれの強み・弱みをマッピングして、その中から顧客企業にマッチした国を選び、現地のベンチャーと事業をつくる取り組みを行っています。私たちのイノベーション拠点のランキングでは、トップはシリコンバレーで、テクノロジー系とサービス系の両方に強みを持っています。イスラエルはテクノロジー系に強いですがサービス系に弱く、逆にニューヨークはサービス系に強いという特徴があります。また、5年後の予測も行っており、バンガロールやエストニアなどがAランクに上がってくるとみています。そんな中で、残念ながら日本は現在も5年後もCランクの評価に留まっています。なお、海外のイノベーション拠点のランキングでは、日本はランキング外になっていることも少なくありません。その理由の一つとして、英語で情報を取ることが難しいことが挙げられます。

東京をイノベーション拠点にするには

では、東京のイノベーション拠点としての価値を高めるには、どうすればよいでしょうか。東京の強みは、フォーチュン500に入るような大企業が集積していることです。これこそ、ベンチャーの新事業を世界に広げていくための一つのインフラだと思います。このインフラに新しいものを載せることができれば、世界に展開する事業にできるチャンスがあります。

そのための一つの場が「Morning Pitch」と言えますが、その派生で「出張Morning Pitch」というものもやっています。これは、特定の大企業の役員会に、その会社と事業提携が生まれそうなベンチャーを6社連れていって「Morning Pitch」をやるというものです。実はこのやり方が、一番提携が進みやすい。なぜなら、経営者はリスクを取れるので、意思決定が速いからです。東京には大企業の本社が集積しているため、こういう場がつくりやすいのです。なお、通常の「Morning Pitch」にも、大企業の社長がお忍びで参加することがあります。

日本の大企業にとって一番の課題は、AIやIoTなどのトレンドは知っていても、それらを活用してどう事業化するかという具体案を持っていないことです。しかし、世界を見渡せば、その具体案を持っているベンチャーがたくさん存在しています。ですから、オープンイノベーションは世界中でやった方が、効率が良いのです。そのために、まずは世界のイノベーションの情報を収集することがスタートラインになります。しかし、そこに立っている企業は本当に少ない。自前でアンテナを張っているところはわずかしかありません。

そこで、東京の真ん中に、世界中のイノベーションの情報を入手できるような空間をつくり、そこで世界中の起業家のプレゼンを聴けるようにすれば、多くの大企業にとって有益な場所になります。もちろん、理想は実際に起業家を呼んでプレゼンしてもらうことですが、東京に来てもらうことができない場合は、ヴァーチャルで行うことも可能です。

私たちも、「Morning Pitch」をSkypeで行う「Remote Pitch」という取り組みを行っています。先日は、イスラエルのベンチャー5社を現地のメンバーが集め、丸ビルに日本の大企業から300人に集まってもらって開催しました。もちろん、リアルに比べれば迫力は減りますが、それでも結構な盛り上がりでした。

世界のイノベーション拠点トップ30カ国くらいから常に最先端の情報が得られ、世界中のベンチャーのピッチを最新のVR設備を備えた空間で聴くことができ、さらにプロダクトに実際に触れられ、ベンチャーと大企業の間で会話もできる。そんな最高のイノベーション空間ができるといいですね。世界を見渡しても、世界中のベンチャーとつながることができるような場は、まだほとんどありませんから。

Editors’ INSIGHT

大企業とベンチャーをつなぐ「Morning Pitch」という「場」をつくり、事業創出をサポートしてきた斎藤さん。本当にやる気がある人たちが集まり、大企業とベンチャーが対等な関係で出会う「場」をデザインしたところに、イノベーションを生み出すヒントがあると感じました。
また、目の前でプレゼンテーションを聴くからこそプレゼンターの想いや熱量が人々を引き寄せる原動力になる、ということをお聞きし、リアルな空間が持つ価値を再認識することができました。

「Morning Pitch」に参加するようなイノベーターが集まる「場」とはどのような空間なのか。大企業やベンチャー問わず、集まった人たちが自発的にコミュニケーションし始める「場」をどのようにデザインするのか。
都市やオフィス空間のあるべき姿を探索するために、未来のワークスタイルや仕事が生み出す価値、働き方の変化について、イノベーターの考えを伺っていきたいと思います。

斎藤 祐馬 氏 トーマツ ベンチャーサポート 事業統括本部長 慶應義塾大学経済学部卒。2006年公認会計士試験合格、監査法人トーマツ入社。 2010年社内ベンチャーとしてトーマツ ベンチャーサポートの事業を立ち上げ、ベンチャー企業の成長支援を中心に、大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案などを手掛ける。

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