21世紀は「マイクロカルチャー」の時代

中川 悠介 氏 街を基点としたカルチャーの創り方 第1回

マスカルチャーからマイクロカルチャーへ

最近はメルカリなどのように、インターネットやデジタル技術を使って既存のやり方を簡略化するようなビジネスが流行っていますが、僕たちのやっていることはむしろアナログで、人がリアルに体験することの価値を高めていくことをビジネスにしています。今は色々なことがデジタルの力によって、時間や場所にとらわれずにできる時代です。でも、だからこそ、その場所にいなければ体験できない価値をつくり出す力が、ますます大切になっていくはずです。ネット上のサービスがどんどん便利になって、どこででも働けるような時代になるほど、特別な体験の場を創り出す自分たちの価値は逆に高まると考えています。

僕たちの企業理念は、新しいカルチャーを創り出すことです。今、カルチャーを考える上で大切なことは、これまでのようなマス(大衆向けの)カルチャーは既に存在せず、マイクロ(ある特定の人向けの)カルチャーがたくさんある時代だということです。テレビCMを流して商品やサービスを売ることが通用しなくなっています。たとえお茶の間の認知度が高くても、それが売れ行きや集客につながるとは限りません。特に若い人たちは、誰かから提案されたものではなく、自分たちが良いと思うものを良いという時代です。例えば、「おいしい」と宣伝されたものよりも、インスタグラムなどを見て知った「おいしいらしい」ものの方が流行ったりします。また、世代間のギャップも大きい。ユーチューバーは若い世代には絶大な人気ですが、40代以上の人はほとんど見ませんよね。

そういう意味では、今の時代に、マスに向けて何かをすることはとても難しいと思います。今時、どのテレビ局も同じ時間帯にワイドショーやバラエティ番組をやっているのは、日本だけでしょう。日本は、雑誌を作ったら取次が流通するなど、未だにマスに向けたコンテンツ配信のシステムが根強く残っているんです。音楽の世界ではネット配信が普及し、その人が好きそうな曲が自動的にレコメンドされて配信されるようになっています。このように、あらゆるサービスが、マスではなくマイクロカルチャーを意識して行われるべきだと思います。

マイクロカルチャーを意識したビジネスを展開

僕たちは、常にマイクロカルチャーを意識してビジネスを行っています。クラブイベントでも、いろいろなことをやっていて、最近は朝にヨガをやるイベントもあったりします。今までは、F1層(20〜34歳の女性)ならこれ、というようにターゲティングが明確に決まっていましたが、今は、F1層の中にもいろいろなタイプがいます。それぞれの小さなターゲットに合わせていかないと、何も流行らないのではないかと思います。

企業の依頼で商品プロモーションを引き受けることも多いですが、その際も、「僕らが想定できるターゲットは担当しますが、それ以上のことは求めてもらわない方がいい」という話をよくします。もしマスに向けて売りたいのであれば、僕らが強いターゲットに対しては僕らにやらせてもらって、それ以外はターゲットごとにいろいろなところにお願いして、それぞれのターゲットに適したプロモーションを行った方がいいと思います。多様な人たちに向けて、いろいろな入口を用意するのです。

だから、街づくりでも、例えば1億人の来街者を目標とするのであれば、1億人向けに1つのカルチャーを打ち出すよりも、2000万人ずつを対象に5つの異なるカルチャーを打ち出した方が、人が集まる可能性があります。それぞれのライフスタイルに適した複数のカルチャーを用意することが、今の時代には大切な気がします。

僕らは今、日本のポップカルチャーを世界に発信する「もしもしにっぽん」というイベントをやっていますが、そこでは、自分たちのわかる範囲で日本のさまざまなカルチャーを集めて紹介しています。自分たちがわかる範囲のことをやり続ける。それがアソビシステムのマイクロカルチャーです。自分たちにわからないことは、わかる人に任せるスタンスです。僕らは芸能界で上を目指しているわけではなく、自分たちにできることをやること、自分たちにしかできない場所をつくることで大きくなっていきたいと考えています。

クリエイター教育をやりたい

マイクロカルチャーを創り出すためには、学校教育も変わった方がいいと思っています。実は、来年から教育をやろうと思っているんです。もちろんベーシックなことは共通して学んだ方がいいと思いますが、音楽や色彩感覚や、何かを創り出す力など、クリエイティブなことに能力のある子どもがそういうことを学べる、学童保育の特別版みたいな場所をつくりたい。きっとクラスに2、3人はそういう子どもがいると思うので、そういう子どもたちが集まれる場をつくれば、才能をもっと伸ばせるようになるはずです。

中国では、演劇学校や卓球の学校など、半ば強制的に早い段階から専門的な教育に取り組み成果を上げています。中国のやり方はやり過ぎだと思いますが、日本でも、才能の持ち主を子どものうちから専門的に教育する機会が必要だと思っています。

かつての日本は、ソニー、パナソニック、トヨタ、日産など、技術力で世界に認められていました。今は、アニメやデザイン、食などの繊細でクリエイティブな部分が強みとして認識されています。例えばニューヨークでは、美容師で一番人気があるのは日本人です。カットも、髪を染めるのも、ネイルもうまい。また、日本食はどこでも人気があります。海外ツアーでいろいろなところに行きますが、韓国人がやっていたり、中国人がやっていたりする日本料理店がいっぱいあるじゃないですか。日本人が海外に行って韓国料理の店をやったりしませんよね。それぐらい、日本食は魅力があるということです。

アニメや日本食など以外にも、日本人の創造性はもっとフィーチャーされるべきです。しかし、今の日本には、それを学んだり表現したりする場所があまりありません。もっとニッチな領域も含めて、創造性を伸ばし、表現できる場所をつくっていきたいと思っています。

中川 悠介 氏 アソビシステム 代表取締役 1981年東京生まれ。学生時代からイベントの企画・運営を手がける。2007年にアソビシステムを設立。拠点とする東京・原宿の街が生み出すファッション・音楽・ライフスタイルなどの“HARAJUKU CULTURE”を、国内はもとより世界に向けて発信する活動を行っている。

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