建築とアート、最高の組み合わせとは?ーー常盤橋タワーのアートコレクション④

常盤橋タワーに設置されたアート作品全18点について、ディレクションしたコダマシーン・金澤韻(かなざわこだま)が、5回にわたって解説します。第4回の今回は「建築とアート、最高の組み合わせとは?」。(冒頭の画像は吉野もも《Kami #71》(2021)(部分)©YOSHINO Momo Courtesy of rin art association. Photo: Ota Takumi)

さて、今回は作品の紹介から始めたいと思います。

大庭大介

月や火星から送られてくる映像のようだな、と、大庭大介のホログラム顔料を取り入れた絵画を見るたびに思います。つまり、日常で見ている色彩、光と影が姿をひそめ、異なった自然の法則が支配する光景を見ている気持ちになるのです。アート作品を観る体験は、瞬間的な異世界への旅でもあります。1日24時間で割り振られた地球の感覚を離れれば、些末なこと(「メールの返信が来ない…」といったようなこと)から自由になれるかもしれませんね。

大庭大介《6》(2021) ©Daisuke Ohba  Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE. Photo: Ota Takumi  B3F オフィスEVホール*

吉野もも

これらの絵、絶対「手前に立ち上がっている」と思いますよね。でも近づいてみると完全にフラットなのです。吉野はだまし絵の技法を使って制作します。モチーフは、日本の伝統として有名な、折り紙。一枚の平面である紙が、折っていくことで立体として立ち上がる――吉野の作品はその面白さを、もう一度平面の絵画に仕立て直すことで、強調して見せてくれているのです。

吉野もも《Kami #72, Kami #75, Kami #71, Kami #74, Kami #73》(2021)©YOSHINO Momo Courtesy of rin art association. Photo: Ota Takumi 3F MY Shokudo Cafe

荒牧悠

青、赤、金、四角、三角、丸。荒牧はシンプルな色と形を組み合わせてユニットをつくり、さらにそのユニットを壁面に数多く並べることで、複雑な絵画にしました。そしてじっと見ていると、中心に六角形が見えてきたり、まわりに八角形が見えてきたりと、地と図がひっくり返ることによって起こる視覚効果もあることがわかります。
角度や向きを調整することで見えるものが変わってくるーーそれは、「ちょっと視点を変えてみては?」という、私たちの心を軽くするアドバイスでもあります。

荒牧悠《青と赤の構成》(2021)Photo: Ota Takumi 8F 常盤橋タワーラウンジ*

ワン・イー

注目を集める中国若手作家の一人、ワン・イーの絵画は、絵の具を丁寧に、何層も重ねて作られます。そうして表れた、微妙に変化していく色の連なりの中、奥のほうに輝く光の存在を感じるでしょう。それは私たちの周囲に広がる都市の情景とも重なります。表面的にはつるっとして見える都市も、それぞれ異なる複数の人たちが一緒に住んでいるという、私たちの社会の構造を象徴的に表しています。

ワン・イー《地中の日の出》(2021)Courtesy of Wang Yi and AIKE, Shanghai. Photo: Ota Takumi B4F オフィスEVホール*

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さて、これらの4作品に共通するところがあります。それは何でしょうか?

はい、お気づきの通り、4作品とも丸、三角、四角といった、幾何学模様を持っていますね。

コラム第2回「常盤橋と日本の文化」と関連していますが、常盤橋タワーは、江戸切子の剣菱模様など、伝統的意匠を取り入れています。この工夫に合わせるよう、上記のような作品を採用しました。

街を歩いていると、たまに、アート作品が、空間に色と変化を添えるだけの“飾り”として扱われているのを見かけて、残念な気持ちになります。アート作品は、アーティストが、長い時間をかけて思考したことを、これまた長い時間かけて生み出した技によって形にしたもの。だからそれ単体で力があります。まずはこの作品の力を理解することが一番大事です。

そして、建築の側にも文脈やストーリー、そして空間的な条件があります。いくら素晴らしいアート作品でも、その展示環境に合っていなければ、両者共倒れです。建築とアート、最高の組み合わせとは、内容レベルでのマッチ、そして、色、素材、質感のレベルでのマッチ、双方が絶妙なバランスで噛み合っているものです。

今回は、建築意匠との接続を意識したことがわかりやすい4点の作品をご紹介しましたが、常盤橋タワーのアートコレクションでは、それぞれの作品が「奇想の系譜」「伝統の継承」「未来志向」「持続可能性のビジョン」など、建築とミッションを共にし、それと同時に建築空間や意匠と接続する要素を持っているのです。

*印…オフィスエリアとなります。一般の方はご入場いただけませんのであらかじめご了承ください。

このコラムでは全5回にわたって、常盤橋タワーのアートコレクションについて書いていきます。

金澤韻(かなざわこだま) コダマシーン ファウンダー、アーティスティック・ディレクター。 現代美術キュレーター。これまで国内外で50以上の展覧会に携わる。東京芸術大学大学院、英国王立芸術大学院大学(RCA)現代美術キュレーティング科修了。公立美術館での12年の勤務を経て、2013年に独立。2017年から3年間十和田市現代美術館の学芸統括としても活動。2018年、増井辰一郎と上海にてアートとデザインの企画・開発ユニット、コダマシーンを設立。

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