持続可能性のヴィジョンーー常盤橋タワーのアートコレクション③

常盤橋タワーに設置されたアート作品全18点について、ディレクションしたコダマシーン・金澤韻(かなざわこだま)が、5回にわたって解説します。第3回の今回は「持続可能性のヴィジョン」について。(冒頭の画像はジェイコブ・ハシモト作品のディテイル)

SDGsが国際社会の指標となるなか、ビジネスにおいても環境保全、持続可能な社会へ向けた取り組みは、いまや不可欠な要素となりました。常盤橋タワーも複数に渡る環境関連の認証を取得するなど、時代の先端を行く高層ビルとしてこの課題をつよく意識しています。

持続可能な社会への第一歩は、私たちが地球上の生物の一員であること、自然の一部であることを意識することだと、私は考えています。常盤橋タワーのアートコレクションでも、私たちが自然とともにあることを感じさせてくれる作品をフィーチャーしました。

ジョン・ヘリョン

ジョン・へリョンは、空間内に描かれたドローイングのような彫刻作品を作ってきました。その形は水や気の流れなど、自然の中にある力の軌跡を思い起こさせます。今回の作品は、同時に、「縁」を象徴する水引の形を連想させるかもしれません。中国との交易をきっかけに日本で発達したとされるこの“結び”の文化の印象と、刻々と変化するLEDライトの色が合わさり、現代、そして未来の予感を紡ぎ出します。

ジョン・ヘリョン《A Line of the Projection》(2021) Photo OTA Takumi  1F オフィスEVホール*

森山 茜

建築を学び、そのマインドをもって創造に臨む森山の作品は、確かにまるで光と空気でできた建築物のようです。今回は張りのあるメッシュを素材に使い、12メートルにもおよぶ作品を制作しました。京都の染色職人の工房と協働し、青から黄色、オレンジへと移ろう美しいグラデーションを染め出しました。やさしい光がそこにとどまっているような不思議な存在が、常盤橋タワー3階の空間に浮かびます。

森山 茜《スペクトラム》(2021) Photo OTA Takumi  3F MY Shokudo Dining

タン・ジエ

一枚の金属プレートの動きが隣へと伝わり、白い面から金色の面へ、また金色の面から白い面へと次々にひっくり返っていく、動く彫刻作品です。永遠に寄せては返す、海の波のようでもあり、また人から人へと伝播していく情報や感情の流れのようでもあります。タン・ジエは、石や砂、金属と、動力を組み合わせた瞑想的な作品で知られます。ここで彼は、自然の摂理や、ひとつの星の上に起こるゆっくりとした時間の経過を、作品の上に実現しようとしています。

タン・ジエ《うんぬん》(2021) Photo OTA Takumi  1F オフィスエントランス*

ジェイコブ・ハシモト

紙を張った小さな凧状のユニットを多数組み合わせ、雲と風景が混ざり合ったような空間的作品を作るジェイコブ・ハシモト。半透明の素材が、空間の内外を柔らかく仕切る障子のように、人と自然の間にある呼吸を感じさせます。白いユニットは蒸気や光、柄のあるユニットは建物や町の風景、あるいはいろいろな模様の服を着ている人々を連想させるかもしれません。私たちの暮らす空間が、いつも大気や水や光に満たされていることを思い起こさせます。

ジェイコブ・ハシモト《The Universal Constraints of Memory and Madness》(2021) Photo OTA Takumi  B3F オフィスエントランス*

*印…オフィスエリアとなります。一般の方はご入場いただけませんのであらかじめご了承ください。

このコラムでは全5回にわたって、常盤橋タワーのアートコレクションについて書いていきます。

金澤韻(かなざわこだま) コダマシーン ファウンダー、アーティスティック・ディレクター。 現代美術キュレーター。これまで国内外で50以上の展覧会に携わる。東京芸術大学大学院、英国王立芸術大学院大学(RCA)現代美術キュレーティング科修了。公立美術館での12年の勤務を経て、2013年に独立。2017年から3年間十和田市現代美術館の学芸統括としても活動。2018年、増井辰一郎と上海にてアートとデザインの企画・開発ユニット、コダマシーンを設立。

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